背景
本研究はSNS上で「他者と比較し、自分を卑下する」コメントに着目したことが始まりである。SNSというコミュニケーションの場において、日常的にSNS上の作られた理想像を目にすることで、現実の自分との違いを感じやすく、自然と他者と自分を比較する構図ができやすくなっている。このような環境を、本研究では「他者比較文化」とする。
またSNSの可愛い子やキラキラした生活など良い一面だけが切り取られるという特徴から、自分が置かれている現実との差を大きく感じやすく、「自分はダメなのではないか」と無意識のうちに自己評価を下げている点を問題視した。
アプローチ方法
「自己否定的な思考」対してアプローチする上である社会運動の事例を参考にした。
この社会運動は、他者からの評価に意識を向けるのではなく、自分自身と向き合うことに着目した結果、共感を生み、活動が持続したという事例である。
これを参考にし、本研究でも「他者と比較することは悪いことだ」とするのではなく、「その問題を抱える当事者に寄り添う」アプローチ」を考えた。
作品について
研究の成果として、近未来を舞台に「自己否定症」という架空の病を設定した漫画作品を制作した。
他者比較によって自己否定的な思考を繰り返すようになってしまった高校生の主人公が、そうした歪んだ思考を指摘し、前向きな思考になれるようサポートするメンタルケアAIとの出会いの中で、友人との関わり方が変化し、少しずつ自身の思考の歪みに気づいていく過程が描かれる。漫画という形式を用いることで、コマ割りや表情表現を通じて内面の変化を視覚的に表現し、主人公の思考の過程を丁寧に描くことで、読者が主人公の心理を追体験できる構成を意識している。
まとめ
完成した作品に対するアンケート調査からは、多くの読者が「共感した」「考えさせられた」と回答し、自己理解を促す一定の効果が確認された。一方で、共感に至らなかった層も存在し、物語構成や心理描写の工夫が今後の課題として挙げられた。
本研究を通して、漫画という視覚表現が自己否定的な思考を可視化し、読者に気づきを与える有効な手段となり得る可能性が示された。今後は表現手法の改良や、より幅広い読者層への展開などが考えられる。また今作品が、無意識に「自己否定的な思考」になってしまう人に届き、少しでも考え方に変化をもたらせるようになって欲しい。

